プチ断食と申梅(さるうめ)2
3日目。猛烈な頭痛と眠気がやってきました。その原因は、食物が体に入ってこなくなると体はエネルギー源となるケトン体の生成を始めるのですが、脳はケトン体の働きに慣れていないため拒絶反応として頭痛が起こるそうです。もうひとつの理由は、脳の唯一の栄養素である糖の不足で低血糖に陥るためと考えられています。これが眠気や疲労感も引き起こすのです。
1日、2日目までは断食修行者が参加できる写経や真言密教の瞑想法である密教座禅を体験して楽しく修行ライフを満喫していました。しかし、今や階段一段昇るのさえ手すりにつかまり、重力との闘いのごとく重い体を引きずり移動しなくてはなりません。いや大げさでなく。ふざけているのかと叱られるくらいスローな歩みでしか進めないのです。毎朝6時から始まる成田山新勝寺の御護摩祈祷に参拝するのが日課ですが、大本堂までの石段を山頂目指すかのようにゼーハーゼーハー言いながら這い登ります。護摩祈祷が厳かに始まり、しばらくして全身を貫くような大太鼓が鳴り響きます。太鼓がリズミカルに打ち鳴らされる中、護摩木が次々と焚かれます。立ち上る炎を仰いで一心不乱にご真言を唱えると、まさにお不動様のお姿が浮かび上がるかのような錯覚を覚えます。朦朧とした意識で炎と太鼓の響きに包まれながら真言を唱える。まさにトランス状態。
昼間は相変わらず眠気との闘いです。私は夜の睡眠のために日中は寝ないと決めて、どんなに横たわりたくても布団は敷かず(寝るのは自由です)、ひたすら成田山の境内の中をさまよっておりました。人間って歩きながらも寝られるのですね。危険人物通報レベルです。
私が年功序列で女子部屋の主になると、毎度新入りさんが来てぼやく、お世話係りさんに「怒られた―」「こわい~」の言葉に笑ってしまうのでした。もちろんみんな規則を破るつもりなどなく、単なる勘違いだったり、うっかり軽口を叩いてこっぴどく叱られるというパターン。ですが、その頃にやっと私はお世話係りさんの厳しさが納得できるようになりました。たとえうっかりだったとしても、その軽はずみな行動や心の持ち方が、のちに肉体の変調をむかえる時に精神の弱さとして壁になるのではないかと思ったのです。まあ、5泊6日くらいの私が言うのもちょっと大げさですが。ただ、もしも断食中に規則違反を犯す不届きな人がいた場合、真面目に取り組んでいる者にどれだけの迷惑を及ぼすかは容易に察しがつきます。まず気力が萎えることは間違いありません。
5日目を過ぎる頃。ざわついていた気持ちの乱れも落ち着き、体がすっきりと軽く感じられるようになってきました。朝の御護摩祈祷の御真言も雑念なく唱えられるようになりました。つづく。
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