頭の中のもうひとりの私
先週日曜日に私が所属する東洋はり医学会の定例講習会に行ってまいりました。今回は年に数回ある外来講師講演で「脳の学校」代表、加藤プラチナクリニック院長の加藤俊徳先生のお話をお聴きしました。
加藤俊徳先生のプロフィール(著書/『右脳の強化書』より抜粋)
新潟県生まれ。医師、医学博士。株式会社「脳の学校」代表。加藤プラチナクリニック院長。昭和大学客員教授。発達脳科学・MRI脳画像診断の専門家。脳番地トレーニングの提唱者。1991年、現在、世界700カ所以上の施設で使われる脳活動計測法fNIRSを発見。1992年、MRI脳白質活動画像法を発表し、ローターバー博士(2003年ノーベル医学生理学賞受賞者)に認められ、その後、脳個性の可視化に成功し「脳の枝ぶりMRI画像法」として実用化。 2006年、株式会社「脳の学校」を創業。2013年、加藤プラチナクリニックを開設。ビジネス脳力診断、発達障害や認知症などの予防脳医療を実践。著書『脳の強化書』(あさ出版)は35万部、『脳が知っている怒らないコツ』(かんき出版)、『人生が劇的に変わる脳の使い方』(PHP研究所)他多数。
講演では加藤先生の幼少期のエピソードや脳科学者を目指された理由など、ユーモアたっぷりに語ってくださいました。経歴をみると切れ者のエリート医師といった印象ですが、実際の加藤先生は想像をはるかに超える“変わりモノ”人生を闊歩され、非常に興味深い人物でした。
お話は脳と手の関係や脳を活性化させる手や足の使い方、記憶力や老化に関してなど多岐にわたる内容であっという間の二時間。ご興味のある方、加藤先生の著書はとてもわかりやすい解説と実践法が丁寧に書かれていますのでぜひお勧めです。
で、ここからです。実は私、ずっと長い間秘めていた悩み事があり、講演後に思い切って加藤先生に質問をしました。「右と左がわからないのです……」
わからないというか、とっさの判断で迷う事があり、少し時間がかかるのです。子どものころは区別がはっきりできずに人前で恥ずかしい思いをしたこともあります。そのうち自然にわかるようになると思っていましたが、いつまでたっても苦手なまま。そして鍼灸学生の頃、大脳皮質について学んだときに「失認」という症候を知り、自分に当てはまるのではないかと気付いたのです。
失認とは感覚を介して対象物が何であるかを認知できない状態を指します。失認の原因は脳血管障害などの病気がもとになる場合と、脳の特定の領域に何らかの病変が存在し、症状としては、字の書きとりができない、計算が苦手、左右がわからないなどがあり、人によって程度も違います。後者の失認は著名人で公表している人も案外多く、それほどレアではないと思います。
私の場合は左右失認になりますが、1,2秒の時間があれば理解できますし「お箸を持つ手が右」のように身体感覚を使えば迷いはありません。
鍼治療の時は「鍼を持つ手が右」とちょっとだけ右手を挙げて確認をします。ただ、患者さんが「左の肩が痛いです」とおっしゃっているのに、「ここですね」と思わず右の肩に触れてしまうことがたまにあり、患者さんからみると「聞いてない!!」となるのかも知れません。
治療開始は「鍼を持つ手が右」の確認が合図。この動作はちょっとした儀式のようなものになっていて、右手をあげた瞬間にスイッチが入り鍼に集中できます。それに経絡治療は局所だけの施術を行わない全身治療であるのと、感覚を研ぎ澄ませて触診とツボの反応で病態を把握するので右左で困ることはないのですが、うつ伏せ、仰向けと姿勢が変わると少しだけ混乱する時があって、加藤先生に対処方法を聞いてみたのです。
加藤先生からいくつかの質問を受け、それにこたえると、どうやら私は左右失認で間違いないようでした。ご親切に左右を認識できるトレーニング法を教えてくださいましたが、最後にもっといいことを教えてくれました。
身体には代償作用という機能が備わっていて、どこかの一部に障害を受けても、別の器官がその機能を補う働きをしているということ。そしてもう一つ、私のような脳には特別に発達している領域がある可能性があり、その能力を伸ばすことで特異な才能を伸ばすことができるということでした。しかもそれは画像診断で特定することができるというのです。
そして加藤先生はこんなことも教えてくれました。障害があったり、学校や社会になじめずに引きこもりになったりする人たちがいます。でも、その人たちの脳に存在するもうひとりの自分と出会うことで、自分の可能性を知り自分を理解することができるのです。かつての加藤先生自身がそうだったそうです。そのもう一人を見つけるために、自分は脳科学者になったのだと話してくださいました。
最後に私は質問しました。「世の中に、自分の頭の中の人格を知っている人とそうでない人とではどちらが多いのですか。」
先生のこたえは「ほとんどの人は、自分のことを知りません。」でした。
私は思います。誰にでも本来の自分の能力を存分に発揮して役割を果たす可能性があり、それが脳の領域に示されているのならば、生れた時にはすでに自分を輝かせる人生の青写真をたずさえているのかもしれません。でも、さまざまな制約の中で暮らす私たちはいつの頃からか周りと同調し、自分の能力を封印して、当たり障りなく、または我慢を強いられて生きているのではないか。そしてときに頭の中の自分が「それは違うよ」と訴えることがあるのかもしれない。その声が大きく響けば響くほど、不調や違和感というかたちになって心と体を苦しめるのではないでしょうか。
画像診断で私の得意分野がわかるかもしれないと知ったとき、一瞬「ぜひ!!」と思いました。でも、やめました。なぜなら得意分野かどうかはわかりませんが、いま、鍼灸師として毎日患者さんと向き合っている日々が私にとっては天職だと思えるからです。難しい局面があっても、乗り越えるほどに喜びを見出すことができるからです。
「右脳の強化書」カバーのそでにはこんな言葉がありました。
脳は何歳になっても成長し続けられます。
眠っている右脳を目覚めさせて
潜在能力を開花させましょう!