診断即治療
東洋医学では「証に随って(したがって)治療する」随証療法を基本とします。経絡治療では西洋医学でいうところの診断を証決定と呼び、証決定をするための予備行為として、症状を五行に分類したり、十二経絡の変動を診たり、体質・病因などを考え合わせ、四診法をにより体を診察します。四診とは『望診(視覚)、聞診(聴覚・嗅覚)、問診(問いかけと応答)、切診(触覚・脈診)』などの五感を働かせて、病態を把握する方法です。このようにして導き出された主証は直ちに治療へと結びつきます。(診断即治療)主証が決定して実際の治療を行うには、どの経絡のツボにどのような施術をするのか、用いる鍼の選択は?手技手法は?と瞬時に判断します。来院した患者さんにお話を伺っているあいだ、私の頭の中はフル稼働してこれらの情報をまとめ上げているのです。
治療にあたっては治療原則というものがあります。専門的な用語になりますが「陰主陽従」「補法優先」「相剋調整」「片方刺し」「難経六十九難の法則」に基づきます。語句の説明はさておき意味を要約すると、陰陽五行論と難経(なんぎょう:東洋医学の原典、黄帝内経と並ぶ三大古典のひとつ)の法則に従って治療を行うということです。
「相剋調整」と「片方刺し」は、私が学んでいる流派の独特の治療法で、古典における不変の真理を貫きながら、時代、地域、環境条件の変容にあわせ実地臨床上に即して確立した手技手法です。片方刺しについて言えば、たとえば手首には太淵(たいえん)というツボがあります。太淵は左右の手首にありますが、両方の太淵に鍼をするのではなく、どちらか片方のみに鍼をするという手法です。経絡治療では陰陽バランスの偏りが病症の原因と考えます。手首の太淵を治療対象穴とする場合、気の巡りの旺盛な方を適応側とします。これは、気血の巡りの良い方に施術をした方が治療効果が高いからです。活発に働いている経絡のツボを使い、気血を全身に巡らせて自己治癒力を促します。
では左右のどちらを適応側とするか。通常は男性が左、女性は右とします。ただし男性でも症状が左に偏っている場合は巡りのよい右側に、女性でも症状の偏りをみて同様に判断します。性別でわけるのは、臓器や生理機能の違いで気血の巡りにも影響があるからです。それから、どちらの性も兼ねている方や見た目とは違う性の方もいらっしゃいます。その場合はご自身本来の性や性別だけに限らない様々な方法で治療を決定していきます。
また東洋医学においては五行論の基本元素である「木・火・土・金・水」と人体の相互関係を治療原則としていますが、やはり古代中国で確立したそのままの原則を現代人に当てはめるには無理があります。そこで経絡治療では「相剋調整」という独自の治療法則を考え出しました。(詳しくはまた今度) このように経絡治療というのは、二千年前の古典医学を土台としながら、おひとりおひとりに合わせて治療を施す、ダイナミックかつ繊細な治療といえます。そしてご紹介した内容は経絡治療のほんの一部。私も日々勉強の連続です。
伝統医術とは本当に奥深いものです。毎日の臨床で患者さんと接していますと、科学では説明がつかない(科学が追い付かない?)現象がたびたび起こります。まさに時空を超えて。そしてそれを患者さんと分かち合うことのできるこの仕事に私は生きがいを感じています。
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