自律神経と鍼灸治療

 

目次

1.自律神経とは
1-1)交感神経と副交感神経
1-2)自律神経がうまく働かないと…
1-3)自律神経失調症の原因
2.自律神経と鍼灸治療
2-1)一般的な鍼灸治療と経絡治療の違い
2-2)東洋医学の考えかた
2-3)自律神経失調症と経絡治療
3.お伝えしたいこと

 

1.自律神経とは

自律神経は、全身の筋肉や内臓、血管、分泌腺などほとんどすべての器官に分布しています。人が常に安定した状態で生命を維持できるのは、この自律神経のおかげです。

では、自律神経の働きの一部を紹介しましょう。

  • 気温が上昇すると汗を出して体温を調節します。
  • 運動時に心拍数を上げたり、血管を収縮させて筋肉へ酸素を供給します。
  • 好きな人を前にするとドキドキしてしまいます。

私たちは外からの刺激に対して、状況に応じた変化を無意識のうちに行っています。その司令を出すのが自律神経です。

自律神経の支配領域は、瞳孔、心拍数の増減、立毛筋、消化腺、排泄、気管支や胃腸の平滑筋、ホルモン分泌、興奮や闘争などの感情の高まり、休息、睡眠、免疫系など生命活動のほぼすべてに及びます。 私たちが生きていく上でなくてはならない機能なのです。


1-1)交感神経と副交感神経

自律神経は交感神経と副交感神経という2つに分けられます。この2つがバランスよくはたらくことで体の機能をコントロールして健康状態を保っています。
簡単に説明すると、日中の活動に適したはたらきをするのが交感神経、休息時や睡眠中にはたらくのが副交感神経です。

交感神経が優位のときは、労働や勉強を意欲的に行い、余暇を有意義に楽しむ活力に満ちています。危機的状況においては、瞬時に判断を下す原動力となるでしょう。

副交感神経が優位のときは、食後の胃や腸は体に必要な栄養を摂取するため活発に消化活動を行います。心身がリラックスすると精神が安定し、睡眠中は疲労が取り除かれ、体の修復が行われます。また免疫力を蓄えるのもこの時間です。


1-2)自律神経がうまく働かないと…

自律神経は前述したとおり、ほぼ全身の器官に影響を及ぼしています。ですから自律神経が乱れてしまうと、体のいろいろなところに不調が現われます。

その不快な症状が自律神経失調症と呼ばれる状態です。

実は、『自律神経失調症』というのは病名ではありません。自覚症状があるのに検査で異常がなく病変も見つからない場合に自律神経が原因といわれることが少なくありません。

 

〈自律神経失調症の自覚症状〉

a.体の症状

頭痛、耳鳴り、味覚異常、疲れ目、のどの違和感、動悸、めまい、立ちくらみ、のぼせ、冷え、息苦しい、息切れ、食道のつかえ、吐き気、お腹の張り、胃の不快感、便秘、下痢、手足のしびれ、足がつる、多汗、皮膚の乾燥、かゆみ、頻尿、残尿感、インポテンツ、生理不順、肩こり、関節痛、微熱、ほてりなど

b.精神的な症状

脱力感、倦怠感、疲れやすい、食欲不振、不眠、眠りが浅い、朝起きられない、不安感、イライラ、怒りっぽい、やる気が出ない、集中力の低下など


1-3)自律神経失調症の原因

自律神経はからだの内部環境を適切に保つための機能ですから、その環境を脅かす存在が原因といえます。

  • 細菌やウイルスといった外部からの異物
  • 異常気象や自然破壊による環境変化
  • 生活習慣の乱れ
  • 昼夜逆転
  • 過労、精神的ストレス
  • 女性ホルモンの分泌異常
  • 出産、産後の体の変化
  • 引っ越しや転勤にともなう生活の変化
  • 神経質な性格

このように自律神経失調症の原因は日常生活と密接な関係があります。過度のストレス、体力不足や精神的に落ち込んでいる時などは、太刀打ちできない状況に陥ります。また人によって感受性や耐性、症状の現れかたも異なります。

しかし、どなたにも言えることはただひとつ。

つらい症状は、心と体からのSOSなのです。


 

2.自律神経と鍼灸治療

2-1)一般的な鍼灸治療と経絡治療の違い

鍼灸というと、症状のある部位に鍼を刺して、筋肉のこわばりや緊張を緩めるのが目的で肩こりや腰痛などを対象とした治療とお考えの方が多いのではないでしょうか。

そもそも「はりで自律神経の不調がよくなるの?」

と疑問に思われる方もいらっしゃると思います。

多くの鍼灸院や接骨院では、現代医学に照らして疾患を理解し、物理的刺激による生体反応を利用して症状の改善を図ります。ですから、痛みの中心となる筋肉や神経反射を対象とした局所治療が大半です。

一方、経絡治療のなりたちは、東洋医学の自然哲学思想の裏付けによって成立し、日本の気候風土や、そこに暮らす人々の体質に適合させて発展した鍼灸術です。現代的な刺激鍼や中国鍼とも違う独特の日本鍼灸治療です。

経絡治療の考え方は、単に痛みや愁訴のみに着目するのではなく、自然の摂理や生命の営みに素直に従い、なおかつ人間の心の機微をも感じ取る全人的医療に他なりません。


2-2)東洋医学の考え方

古代中国を発祥とする東洋医学では、人は大自然(大宇宙)の一部であり人体の内部の仕組みも一つの小自然(小宇宙)とみなします。その根底にあるのが「気の思想」「陰陽論」「五行説」「経絡説」です。

a.気と経絡

気は見えませんが、誰でも感じることはできます。

『元気』『気質』『気に障る』『気を失う』『気立てがよい』『気分爽快』『気心が知れる』

私たちの在り方や感情を表現する言葉の中には数多くの”気”が使われています。病は気からというように、気の持ちようによって体調も変化します。

このように私たちの生活にも馴染みのある気ですが、中国では「気の思想」が紀元前5世紀頃から老子や荘子によって主張され、天人合一思想とともに東洋医学の基礎となっています。
※天人合一
 人も自然・宇宙の一部であり、人間の形や機能も天地自然と相応しているという考え

気は混沌とした宇宙の広がりの中から生じ、気は陽の気と陰の気に分化します。陽気は天となり、陰気は地となります。天地の陰陽から四季が生じ、やがて人も含めた万物が生じます。

父(陽)と母(陰)の精気により新たな生命が誕生し、生命活動は天の気(空気)や飲食物によって維持されます。父母から受け継ぐのは先天の精、誕生後に獲得するのは後天の精といいます。

さらに気は生体を守るために様々な働きをしています。
・推動作用…器官や組織の新陳代謝を推し進める
・温煦作用…熱を産生し、体温を保持する
・防御作用…体表や体内を巡り外邪の侵入を阻止する

このように気とは生命そのものであり、生命活動を維持するための源でもあります。
ですから、気の不調和は病気を引き起こし、気が散逸すると死に至ります。

生命エネルギーである気は、経絡と呼ばれる12本の通路によって全身を巡ります。各経絡はそれぞれの臓腑(五臓六腑)に気血を届け、生体に活力を与えます。このエネルギーは生気ともいいますが、生気が充実していると、病気になっても自然治癒力を発揮して、自分のからだで病気を治します。

通路である経絡に邪気(体内に侵入して悪影響及ぼすもの。例えば病原菌やウイルス)が侵入すると生気は邪気と戦い体を守ります。また感情の乱れも、生気によって精神状態が安定します。

生気の不足や経絡に滞りが生じて生気が各所に充分に行き渡らない状態が続くと、体に不調が現われて、やがて病気になります。

b.陰陽とは

あらゆる事象には、すべてに陰と陽の二つの側面があります。上と下、左と右、天と地、昼と夜、寒と熱、動と静など、あげればきりがありません。自己の存在を条件づけるには別の一方が存在し、二つ(陰と陽)は対立や制約をしあい、同時に補完しあう関係でもあります。陰陽間は静止した状態ではなく、変化をしながら相互間の平衡や転化が行われています。たとえば昼からいきなり夜になるのではなく、日の出から日中、夕暮れ、夜半といったように状況は移ろいながら変化します。

病気の性質を陰陽でみると、陽は発揚、増強、動的、熱性、積極的な状態をあらわします。発熱や腫脹、充血などが見られる病状です。陰は沈滞、減弱、静的、寒性、消極的な状態をあらわします。顔面蒼白で活気がなく、悪寒や冷えを訴えるような症状です。

C.五行説

五行とは、万物は木火土金水の基本物質(五元素)からなり、自然界はすべてこれに含まれるという考え方です。これらは単純、無関係に存在するのではなく、互いに連携しながら自然界の生態を維持し、調和を保っています。


2-3)自律神経失調症と経絡治療

経絡治療の目的は気を調整し、陰陽五行のバランスを整えることで経絡の乱れや歪みを改善することです。また体内に侵入した邪気を取り除き、自己治癒力によって病気を克服する手助けをします。

これを自律神経のはたらきに重ねると、いくつもの共通点が見つかります。

生体の恒常性に重要な役割を担っているのが交感神経と副交感神経です。この2つが拮抗したり補いあって健康状態を保っているわけですが、これは陰と陽の相互間の働きとよく似ています。
※恒常性
 生体が様々な環境因子の変化を受けても、生理状態を一定範囲内に調整し生命を維持すること

自然界は五元素によって調和が保たれ、循環しているように、人体もまた各々の器官(五蔵)が常に連携をとり生命活動を維持しています。

気血が流れる経絡は、全身に分布する自律神経そのものにたとえることができるのではないでしょうか。

現代医学では自律神経失調症を治す薬はありません。自律神経そのものではなく、個々の症状に対する対症療法としての薬のみです。

本来であれば、無意識のうちに自律神経がバランスをコントロールしているのですから、体の生理機能で快復するのが一番なのに、それがうまくいかないから辛い状態が続くのです。

繰り返しになりますが、経絡治療は気血の調整を行い、自己治癒力を高めることで症状を改善する治療です。物理的な刺激で生体に反応を起こすものではなく、シンプルに自然の摂理に従って患者さん自身の治る力をサポートするのが目的です。

自律神経が体に及ぼす作用との共通性を考えると、他の治療法ではアプローチが難しい自律神経失調症の症状に、経絡治療が有効な理由がお分かりいただけたでしょうか。


 

3.お伝えしたいこと

私は単純に病名や症状と絡めて経絡治療の有効性を喧伝したいのではありません。また現代医学と伝統医術を無理やりにつなげたいのでもありません。

ちょっと前述した内容と矛盾して聞こえるかもしれませんね。
私はどんな医療でも、ご自身が納得して治療を受けるのが最もよい医療との関わりかただと思うのです。

そして「治してもらう」のではなく、まずは最初に「私は元気になる」と強く自分を信じて下さい。ここのポイントは、『元気』です。

東洋思想では元気を『原気』ともいい、本来の意味は「生きようとする欲求」です。生命活動の原動力の事を指します。

もしかすると、怪我や病気によってはもとの体には戻らないかもしれません。先天性の疾患という場合もあります。ですが、心の元気は取り戻せます。

私が臨床に従事し、日々患者さんと接する中で思うのは、人は例外なく森羅万象の調和のもとに生きているという事実です。人間が作り上げた社会のバランスではなく、もっと大きな全体との調和です。

あなたが本来の健康を取り戻すために。
私も、みなさんの治る力を信じて全力で治療に専念いたします。